それは『シュライン』突入寸前まで遡る。

セタンタが血路を開きそこを突入していく『七夫人』更にバゼットと、エレイシア。

それにレンも続こうとしたが、何故かレンが辿り着いたのは一面銀世界の雪原だった。

「やっと来たのねレン」

そのレンに敵意・・・いや、憎悪すら散りばめた声で出迎えたのは白いコート、銀の髪を持つレンだった。

蒼の書十二『雪原』

それが何であるのかレンには良く判っていた。

彼女もまた自分自身。

彼女が今まで使う事無く自身の奥底に封じ込めていたものが『タタリ』の残滓をかき集めたその結果。

残滓を使いながらも既にその存在はもう一人のレンとして完全に確立されている。

例え大本の『タタリ』が消えたとしてもその存在は消える事は無い。

他の残滓が『タタリ』の力全てで生み出されたのとは違い、この白いレンは中心の核が自分の意思で周囲に漂う残滓を取り込み、そしてこの姿となった。

この白いレンは既に『タタリ』から独立している存在。

それ故に彼女はレンであってレンでない。

彼女はレンにとって表であり裏の存在であり、白いレンにとってレンはやはり表であり裏の存在。

「もう逃がさないわ。今度は貴女がここで眠る番。そして私がレンになる」

「・・・」

「何よ?返せとでも言うの?ふざけないで。貴女の勝手なルールで封じ込められていた身にもなってみて」

「・・・」

首を横に振る。

「表に出たら何をしたいかですって?決まっているじゃない。私は私として生きていく。あなたみたいに他者に依存する生き方なんてしない」

「・・・それは違うわ」

この雪原に降り立ってから初めて口を開いた。

「どう違うって言うのよ」

「・・・私は依存していない・・・私はあそこにいたいと願ってあそこにいる」

自分を包んでくれるあの場所、あの人達、そして主人・・・彼らの傍にいたいと思うそれは紛れも無い彼女自身の意思。

その言葉に・・・その言葉の中に秘められた意図を察したのか、それとも自然にその意図が彼女のうちに流れ込むのか、白いレンは心底嫌そうな表情で

「貴女の御託なんかどうでも良いわ。私の目的はただ一つ。貴女から貴女を奪い取り私が立ち代る事だけだから」

吐き捨てた。

そして、レンを仕留めようと、肉薄しようとする。

だが、それは

「・・・拗ねてるの?」

「!!」

レンの思わぬ言葉に硬直した。

「す、拗ねてる?」

「・・・」

こくりと頷く。

「な、何で私が・・・」

「マスターがいるから」

その言葉に更に絶句する。

それは白いレンの内心を的確に突いた言葉だった。

確かに彼女は内心では表に出ているレンが羨ましかった。

彼女(自分)を何時も構ってくれる・・・包んでくれるマスターが欲しかった。

そんな白いレンの動揺を見透かした様に、レンは更に言葉を紡ぐ。

「貴女はもう私であって私でない・・・心は繋がっているけど身体は完全に別々・・・別の一個の人格。だから、マスターとも契約は結べる。私がお願いするわ。マスターに・・・だから」

「うるさい!!何よ!良い子ぶって!!!レンは二人いらない!だからあんたがここで眠るのよ!」

何時に無く饒舌なレンの言葉を遮る様に魔術で氷柱を発現させレンを串刺しにしようとする。

「・・・」

それに対して無言に戻ったレンが同じ魔術で迎撃する。

「くっ!」

それに呼応して魔術で地面に氷の塊を生み出す。

その塊は意思を持った様に芽の様に伸び、レンに襲い掛かる。

だが、それはレンの手にしていたアルクェイドを二頭身落書き調、おまけに化け猫もどきにした人形・・・いやぬいぐるみに阻まれていた。

「痛いニャー」

しかもそのぬいぐるみ(??)、何故か声まで発した。

「へっ?」

想像を遥かに超える事態に呆ける白いレン。

それでも身体はレンに攻撃を加えようと身体は動く。

「・・・」

一方レンはそれを地面に置く。

「にゃにゃにゃ?シャーーーー!!」

それは意思を持ったように上空目掛けて飛び上がる。

「えっ?キャーーー!」

見事に命中し吹き飛ぶ。

それを追いかけ軽快な動きで連続攻撃を加えていくレン。

だがそれをやはり軽快な動きで避け、かわす白いレン。

何とか間合いを取るが流石に肩で息をしていた。

疲れと言うよりも思わぬ事に理性がついていかなかったと言った方が良い。

「はあはあはあ・・・何よ?今の・・・」

信じられないとその表情が語っていた。

普通は信じられないだろう・・・ぬいぐるみが声を発しあまつさえ自分に攻撃を加えるなど・・・

これが夢なら何でもありだがあいにくここはあくまでも白いレンの世界であって夢ではない。

「・・・変?」

「変に決まっているでしょう!!」

心底不思議そうに首を傾げるレンに声を荒げる白いレン。

「そ、それよりも今度は私の番よ・・・ふふっ遊んでらっしゃい」

それでも気持ちを落ち着けて、雪原に猫を放つ。

その猫に対抗してレンも猫を放つ。

力で作られた猫はぶつかり合い相殺される。

「まあこれくらいじゃ駄目よね。でもこれならどう?」

そう言うと突然レンに向かって走り出す白いレン。

「・・・」

それを氷柱で迎撃しようとしたレンだったがそれは氷柱を更にはレン本人もすり抜け遥か後方に走り去っていく。

「!!」

魔術でできた氷柱が消えると同時に自分の目の前に白いレンがいた。

「ここまでよレン。さあ・・・眠りなさい」

そういうと同時にレンの周囲に鏡が現れ包み込む。

そしてその鏡に映されたレンの姿を白いレンが打ち砕く度にレンは苦痛に表情を歪める。

それだけではない、鏡が打ち砕かれる度にレンの姿がおぼろげになって行く。

「さあ砕けて取り込まれなさい!」

最後の一枚を打ち砕き、それと同時に辺りに静寂が戻る。

そこには白いレン以外誰もいなかった。

「ふふふ・・・今度は貴女が眠る番よレン。私の中で永遠に眠っていなさい」

勝利を確信し微笑みながら宣言する白いレン。

だが、その時、頭上に何か影を感じた。

「???」

思わず見上げるとそこには視界一杯のスポンジケーキが今まさに自分に落下しようとしていた。

「へ?えええええええ!!」

それに押し潰され更に上空から次々とナイフとフォークが突き刺さる。

それをどうにか押しのけ脱出した白いレンの視界には

「レ、レン!!!」

今まさに光の玉を自分に向かって解き放とうとするレンがいた。

避けられない。

そんな必中のタイミングでそれを光の玉を放出する。

命中すると同時に一帯は暗闇に支配され、暗闇が消え去ると共にそこには地面に倒れ付した白いレンとおぼつかない足取りだがしっかりと立ったレンが勝者と敗者を指し示していた。

両者ともその服をぼろぼろにしていたが。

「・・・私負けたのね・・・レンどうして鏡を全部砕かれて無事なの?」

悔しさより不思議さが先行したのかそんな事を聞く。

「・・・」

レンは無言で何も無い空間から鏡を取り出す。

「・・・そう・・・貴女自分の世界に鏡を一枚逃がしたのね」

納得いった様な声を出す白いレンにこくりと頷くレン。

「勝てなかった・・・私このまま消えるのね・・・で、どうするの?私をまた取り込むの?・・・まあそれでも良いわ・・・もうどうでも・・・」

「・・・」

そう呟くと静かに意識を失った。

その質問にフルフルと首を横に振る。

質問者が気絶している事も判っているがそれでも答えを返した。

「・・・さっきも言ったわ。もう貴女は私であって私じゃない」

そう言うと、その手をとり起き上がらせるレン。

「マスターの所に行くの・・・それでお願いする・・・あなたを生かしてくださいって」









「なるほど・・・そう言う事か・・・」

レンから事情を教えてもらった志貴は静かに頷いた。

そしてその場で士郎達にも事情を話す。

「・・・」

そんな志貴に申し訳なさそうに見上げるレン。

「ああレンそんな顔をするなって」

苦笑して頭を撫でてやる志貴。

それを眼を細めて気持ち良さそうに撫でられるレン。

そんな志貴とレンに拗ねた視線を向ける『七夫人』。

「私としては処断するべきです。志貴君・・・ですけど君がその夢魔の頼みを無碍にするなど考えられないですが」

エレイシアは自分の意見を口にするが直ぐに諦める。

おそらく・・・と言うか間違いなく志貴はレンの願いを聞くに違いないから。

「で、志貴どうするんだ?この子・・・ああ白いレンと言うのも面倒だな。名前もつけてやらないと」

そこに士郎が口を挟む。

「な、名前付けるの?」

「ええそうですよアルクェイドさん。いつまでも白いレンだなんてかわいそうじゃないですか」

そう言って士郎は気絶している白いレンの頭を撫でてやる。

あたかも志貴がレンを何時も撫でているように。

それが全てを決めた。

「・・・レン」

白いレンが口を開いた。

いつの間にか意識を取り戻したようだった。

「???」

「私に生きろって言うのなら私に決めさせてマスターを。それくらいは許されるわよね?」

その提案に直ぐに頷くレン。

それを確認した白いレンは視線を何故か自分の頭に手を置く士郎に向ける。

「ねえ貴方いつまで人の頭に手を置いてるつもり?本当失礼ね」

「え?ああご、ごめん」

慌てて手をどかす士郎。

「言葉だけじゃ誠意が感じられないわ。ちゃんと形にしてくれないと」

「えっと?形と言うと?」

その質問に妖艶に微笑む。

「付けてくれるんでしょう?私に名前?」

「はい?」

「貴方が私に名前をつけると言う事はつまり貴方は私を所有物にすると言う事なんでしょう?」

「へ?えええええええ???い、いやそうじゃなくてだな・・・」

「そうなんでしょ?別に良いわよ私は。貴方が変態でも幼女愛好者でもどんなことでも受け容れるし。よろしくね。ご・主・人・様♪」

どうも白いレンの中では既に士郎がマスターであり、変態嗜好の持ち主だと言う事が確定されているようだった。

「いや、よろしくねと言われても・・・って言うか俺にそんな趣味は」

すっかり混乱した士郎の言葉を遮る様に肩を軽く叩かれる。

そこにはすっかり傍観者となったセタンタが人の悪い笑みを浮かべていた。

「お前やっぱりそっちの方に趣味があったのか?」

「冗談抜かすんじゃねえええええええ!!!!!」

心の底からの絶叫で返答する。

だが、そんなシロウを他所にバゼットは何故か呆れ顔で溜息をついていた。

「はあ士郎君・・・」

「バゼット!!!何溜息ついてる!」

だが更に後ろでは

「士郎・・・すっかり志貴に染められちゃったね・・・」

「本当ね・・・やっぱり『朱に交わると赤くなる』って真実を語っていたのね・・・」

「衛宮様・・・」

「衛宮様だけは違うと信じていたんですが・・・」

「衛宮さん・・・なんていうことかしら・・・」

「・・・やはり考慮すべきでした・・・士郎が志貴の影響を受ける可能性を・・・」

「士郎君も変態さんだったのかな?」

『七夫人』までもがひそひそ語り合っている。

「・・・」

しかもレンまでが悲しそうな眼で士郎を見ている。

『眼は口ほどにものを言う』この格言を士郎はこの時ほど強く思った事は無い。

志貴はといえば自分の事でもある為、士郎の弁護をしようにも強く言える筈もなく、

「・・・な、なんでさ・・・」

身に覚えの無い事で人間として押されたくない烙印を押された士郎と言えば真っ白になって崩れ落ちていた。

「さて、じゃあご主人様、早速契約をお願いしようかしら」

そこに白いレンが楽しそうに宣言する。

「ああ・・・」

がっくり肩を落としたまま人差し指を噛み切ろうとする士郎を白いレンが止める。

「待ちなさいよ。何をする気?」

「いや、何って契約を」

「血で済ませる気なの?冗談じゃないわ」

「い、いや・・・だけど・・・」

「言ったでしょ。どんな事でも受け容れるって。それにそんな血でなんて生半端な繋がりじゃ納得できない。未来永劫に渡って絶対に消えない繋がりを私はほしいのよ。だから・・・私の全てを貴方に刻み付けるし貴方の全てを私に刻み込んであげる。だから・・・」

そこで言葉を区切り静かに士郎を見上げる。

その決意に溜息を吐くと士郎は頷いた。

「判ったよ。で、場所は?」

「私の世界にしましょ。あそこなら邪魔も入らないし」

そう言うと、背後にあの黒い空間が広がり士郎と白いレンは飲み込まれて行った。

「ああ、志貴先に帰っていてくれ!」

そんな士郎の言葉を残して・・・

「・・・えっと・・・取り敢えずこれで良いか?レン」

「・・・」

志貴の問い掛けにレンはにっこり笑って頷いた。









そして・・・

翌朝、士郎は白いレンを連れて帰って来た。

「よ、朝帰りか?士郎」

志貴のからかいの言葉に

「ええそうよ。全く激しいったらありゃしないわ。内のご主人様は一晩中責め続けるんだから」

「嘘を言うな嘘をレイ、向こうの世界の方がこっちより時間の流れが速かっただけだろう・・・まあ激しくやったのは事実だが・・・ってそういやセタンタとバゼットは?」

直ぐに一部だけ否定する士郎。

だが、その割には白いレンを士郎がおんぶしているのは何故だろうか。

「と言うか士郎、激しくしたと言う所は否定しないんだな・・・」

「俺としては否定したいけどな」

「俺も人の事は言えないが・・・それとあの二人なら夕べの内に冬木に戻った・・・で士郎、レイって言うのがこの白いレンに付けた新しい名前か?」

「ああ、この子は今日からレイ。まあレンちゃんを一文字変えただけで捻りも何も無い名前だけど」

「でも私は嬉しいわよ。やっと私が私としていられるんだから」

「そうか、レンも気になっていたけれどこれで安心しそうだな・・・それはそうと・・・士郎」

「??どうした?」

不意に暗い表情を作った志貴に首を捻る士郎。

「この子どうするんだ?」

「どうするって?そりゃ・・・!!!!!」

目を見開き真っ青になる。

彼女を連れて行けばどうなるか?

その事態を今更ながら思い出したらしい。

「し、志貴・・・レイを『七星館』に置けない」

「無理だ」

最後まで言わせる事無く拒絶した。

「そうよマスター。別に堂々としていれば良いのよ。私は貴方の所有物なんだから」

にこやかにのたまうレイ。

それを宣言すれば、どうなるのか想像するのも恐ろしい。

「まあ・・・士郎諦めろ」

同情そのものといえる表情で肩を叩いた。

士郎にとっては何の慰めにもならなかったが。









そして・・・衛宮邸に帰還した士郎だったが・・・

『・・・・・・・』

最初こそ無事に帰ってきた士郎を喜んでいた留守番一行だったが、レイを見るなり、あまりに冷たい視線が降り注ぐ・・・

一部愉悦に満ちた視線もあるが・・・

茨・・・いや、針・・・いやいや剣で三百六十度完全に囲まれてもまだ生易しいだろう。

そんな最中士郎とセタンタが視線を交わす。

(セタンタ・・・言っていないのか?)

(いや悪い。何も言っていねえ。下手に言ってお前をあの世に送りたくなかったんだが・・・)

セタンタの心遣いは嬉しかったが薮蛇だったようだ。

唯一の救いは大河がいない事位か・・・いや、もしかしたらこの場にいるべきであるブレーキが無いという意味では大河がいないと言うのは、最悪の事態なのかもしれない。

「で、士郎」

凛の声は恐ろしく低かった。

「その幼女は何?」

「えっと・・・俺と新しく契約を・・・」

「それは聞きました先輩。契約を結んだ夢魔のレイちゃんですよね」

桜が口を開く。

俯いている為その表情を窺い知ることはできないが、彼女の影が異様に蠢いている・・・あたかもその感情を伝えんとばかりに・・・

「だ、だったら・・・」

「判る事と納得する事とそれは大きく違うのよシロウ」

イリヤの周りの風景が歪んでいる。

それが彼女の感情を如実に表していた。

「シロウ私達が聞きたい事はただ一つ、どうしてその使い魔である夢魔はシロウにべたべたしているのかと言う事です」

アルトリア(何故か完全武装状態で)の言葉に全員が頷く。

その視線は士郎とこれ見よがしにべたべた引っ付いているレイに注がれていた。

しかし、これが猫の状態ならまだ良い。

少女の姿でレイは士郎に密接している。

「あら?そんなに変かしら?使い魔がご主人様の傍にいるのが」

一部を殊更強調しながら更にこれ見よがしに士郎に密接して燃え滾っている業火の中にガソリンを注ぎこむレイ。

「へ、変って・・・変に決まっているでしょう!そんな羨ましい・・・じゃなくて恥ずかしげも無くべたべたと引っ付いて」

「そうです!私だってそれをしたい・・・いえ違います、使い魔でしたらもっとこう・・・慎みを持ってするべきではないのですか!」

いち早く反応した遠坂姉妹にレイは余裕綽々の笑みを浮かべ決定的な一言を口にした。

「あら、でも私はご主人様と繋がっているのよ心の底から。何しろ・・・ねえ?」

意味ありげに士郎を見る。

(ひいいいいいいいい!!それを言うなあぁあああああ!!)

心の底で絶叫したが時は戻らないし、既に遅かった。

「何しろすごかったんだから・・・結局私ご主人様に全部捧げたし・・・そう全部ね」

更に付け加え一同に止めを刺すレイ。

周囲の時は完全に止まり誰も口を開かない中、愉悦の笑みを更に深くした一人が口を開いた。

「主よ・・・七つの大罪の一つ『色欲』に満ちた罪深き罪人をどうぞお許し下さい」

それと同時に重圧は更に重く圧し掛かり、数名は戦闘態勢にすら入っていた。

「あああああああ・・・・・・」

(いやだな〜アルトリアさん・・・なんでエクスカリバー開放しているんでしょうか?それになんか鎧姿が何時もと違いますよ。あれ?何時ものくせ毛はどうしました?それに立派な兜まで付けられて・・・それに凛様・・・猛烈に魔術刻印が光っていますが・・・後桜・・・すいません、更に黒くなっていますよ・・・なんか服装まで・・・ってああ、お願いだからメドゥーサに魔眼開放の指示なんてしないで。メドゥーサも『どうせなら『騎英の手綱』を使用しますか?サクラ』なんて聞かないで。俺死ぬからマジで・・・ってイリヤ・・・何ヘラクレスに狂化の命令下しているの?それにどうしてバーサーカー化してるんですか〜ヘラクレスさん!!)

ちなみに当事者以外は起こりえる惨劇の恐怖から既に退避を済ませており、念には念を入れたメディアが衛宮邸を結界で封印していた。

そのおどろおどろしさは過去最大であり、煽った張本人であるレイですら恐怖に駆られ逃げ出したほどだ・・・マスターを置き去りにして。

それから・・・何が起こったのか士郎本人はまるで覚えていないし、加害者達は一同に口を噤み、その他の第三者達は結界の外にいた為何も判らない。

だが唯一言えるのは、全てが終わった時、士郎は何とか生き延びたと言う事だけであった。

そしてレイに関しては不平不満、満ち溢れていたがそれでもどうにか衛宮邸に置かれる事になった・・・









この様にして破滅を知る者は破滅を避けようと努力していたが流れは既に、定まっていた。

最早、個々人の力で歴史の激流を止める事は不可能であり、少しずつ世界は破壊と殺戮の宴に近付く。

『蒼黒戦争』開戦まで既に残り三ヶ月を切っていた・・・

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